土づくり、天気や気温の細かいチェックと対応、収穫時の手間。 玉ねぎの栽培は、時間も労力も並大抵ではありません。「それでも、おいしさが組合員さんに伝わればすべての苦労は報われる」。そんな生産者の思いに支えられて、玉ねぎは育てられています。
[生産者インタビュー]
長崎県南島原市
供給センター長崎 生産者 荒木 隆文さん
苗を育てるところから収穫まで、半年以上の長い期間が必要。とにかく天候に左右されるところが大きい。苗床作りも定植してからも、片時も目が離せない。「ものすごく手間がかかる野菜なんですよ。玉ねぎは」。こう言って苦笑するのは、生産者の荒木隆文さんです。
農業が盛んな島原半島。その南に位置する荒木さんの畑は、普賢岳を遙かに望む絶景の農場です。「生協にはじゃがいもも出荷していますが、同じ土ものでも、玉ねぎの栽培はじゃがいもの倍の労力がいるんですよ」と荒木さん。「苗を育てるための畑を“苗床”というんですが、玉ねぎの場合、その苗床作りがとにかく重労働。でも、野菜にとっての土は、人間が食べるご飯と同じ。栄養たっぷりのものを用意してあげないと、後々に影響してしまいます。手抜きはしちゃいかんのです」。玉ねぎの出来に関わる大切な作業なのですね。
苗床作りはまず、苗床にする畑の草をきれいに刈り取るところから始まります。その後、たい肥と石灰をまんべんなく散布。こうすることで、豊富な栄養を閉じ込めた畑を作り上げるのだとか。さらに、透明のマルチ(土にかぶせるビニールシート)をかぶせて熱を閉じこめ、時間をかけてじっくり殺菌します。「玉ねぎの病原菌とか雑草の種とか、そういうものを死滅させるために必要なんです。農薬を使えば簡単な作業なんですけどね。でも、それはしたくないから」と荒木さん。農薬を使わないからこその作業の大変さも、「この仕事の醍醐味です」と笑顔で語ってくれました。
しっかりとした苗床が完成したら、9月上旬ごろから種をまき始め、苗が20cmほどの高さに育ったところでようやく苗床から田畑に植え付ける「定植」を開始します。「定植する畑にも、たい肥をしっかりまいて栄養を与え、完璧に準備ができてから初めて定植の段階に入ります」と荒木さん。苗床が完成してから定植を始めるまで1カ月以上。長い道のりです。
デリケートな玉ねぎに密植は禁物。ある程度の間隔を空けながら1本1本苗を植えつけたら、今度は日照時間を常にチェックします。気温が高い日が続けば、土にかぶせたマルチを上げて風を通し、雨が少なければ与える水の量を微妙に調整。土の上に伸びたねぎの色や育ち具合を見て、玉ねぎの状態を確認します。常に神経を使い、「今年は大丈夫か…」と気をもむ日々。心安らぐ暇もほとんどありません。
「自然相手の仕事ですから、自分たちの力ではどうしようもできないことが多々あります。それでも、定植した後はその年の天気の変動に合わせて、どれだけ玉ねぎにとって良い状態を作ってあげられるか。それに尽きるでしょうね」。
「玉ねぎは、収穫もこれがまた大変で…」と荒木さん。とはいえ、堀り出された玉ねぎは丸々と大ぶりで、薄皮からのぞく果肉もハリがあってツヤツヤ。休日には収穫を手伝う子どもたちも、畑で掘りたての玉ねぎを丸かじりするそうです。「玉ねぎは、掘り起こしてみないと出来の良し悪しがわかりません。ですから、満足いくものに育っていると心からほっとしますね」。
掘り起こした玉ねぎの葉と根を切り落とすのも手作業です。手際良い鋏さばきで、玉ねぎの根と葉を素早く切り落とす荒木さん。何げない作業に見えますが、そのしぐさ一つひとつに長年培われた技が伺えます。
「こうやって苦労して育てた玉ねぎを、天ぷらにしたり炒めたりして食べるでしょう。その時、『ああ、おいしいなぁ』としみじみ思うんですよ」と荒木さん。笑顔で話す荒木さんからいただいた獲れたての玉ねぎをパクリ。これが本当に甘くて、そのみずみずしさに驚きです。「組合員さんも、同じように感じてくれたらうれしいですね。自分たちにとっては、それが最高のこと。いろいろな苦労も、すべてぶっ飛んでしまいます。組合員さんに喜んでもらえるかなぁと、いつも考えていますね」。
手間ひま掛けて、一つひとつ丁寧に育てられる島原の玉ねぎ。生産者の愛情を乗せて、組合員の食卓へと運ばれています。
※記事の内容は2013年5月取材当時のものです。
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