前回イタリア・ボローニャ編に続いて、今回はイギリス・トットネス編です。
えっ?トットネスってどこだって?
ロンドンから西の海岸線に向かって約3時間、人口9,000人足らずの小さなまちです。どうしてそんなところに行ったかというと、第7・第9回で登場したgreenz.jpの編集長のナオさんにオススメされたからなのでした。
「ヒラク君、ぜったいトットネス行くといいと思うんだよね。みんなローカルの文化や経済盛り上げるために頑張ってるし、ビールうまいし、最高だよ!」
ということで、ボローニャから一路トットネスへ。そこは中世と見まがうような景色の広がるほんとに小さな田舎町。なのですが、町を歩いてみるとエキサイティングな場所がいっぱいあるではないか!
4日間の短い滞在だったのですが、たくさんの出会いがありました。それを逐一書くとスゴいことになってしまうので、話題を絞ってビール男子について書くぜ。
えー、皆さまご存知のとおり、僕は発酵醸造の専門家でして。
味噌や醤油などの調味料から、チーズやキムチなどの発酵食材、そしてお酒など、発酵食を広く研究しているのですね。
で、トットネス。
ここはナオさんの言うとおり、ローカルのビール文化(←これも発酵)が盛り上がっておりました。中でも”New lion Brewery”という小さなビール醸造所と仲良くなったので、今回はそこの話を中心に、「地域を醸す」というテーマを掘り下げていきたいと思います。
最近日本でも話題になっている「マイクロブブリューワリー」。まちに根付いた、手作りビールの醸造所です。
トットネスはその規模にも関わらず、多くの地ビールメーカーがあり、パブに行くとどれを飲んでいいかわからないほどたくさんの銘柄があります。つまり地ビール天国やぞー!
で、なかでもこの”New Lion Brewery”。
ここ、COOP男子で紹介するのにバッチリな、ナイスすぎるビールメーカーなのです。
それでは、醸造家のJacek君に話を聞いてみよう!
「はじめまして。日本から来た発酵デザイナーの小倉ヒラクです。すごく手作り感満載な醸造所ですが、ここはどうやって運営されているのでしょう?」
「日本から来たんだ。ようこそ!
ここはね、トットネスのまちに人たち向けのクラフトビールをつくっている醸造所。まちの人たちから出資してもらって、地元のデヴォン州の原料を使ったビールづくりをしているんだ。一杯飲む?」
この”New Lion Brewery”はなんと、組合型のビールメーカー。
人口9,000人弱のまちで、なんと400人近い組合員から出資を受けて運営されています。これってつまり…
えーそれでは、僕なりに噛み砕いて”New Lion Brewery”の仕組みを説明しましょう。
まず基本的に、
「うわぁっ、このビール美味しいねえ。イギリスっぽい、ぬるくて炭酸の少ない風味、実はあんまり得意じゃないんだけど、このビールはイギリスらしさのなかに、シュッとしたキレがあって、でも飲みごたえもあって…。
これ、麦芽とホップ以外にも何か使ってますか?」
「よくわかったね。これは麦芽とホップの他に、アールグレイの茶葉を使って仕込んでいるんだ。だから香りが華やかになって、キレが出る。」
「へえ〜、面白いなあ。コミュニティ型でビールビジネスをやっているということは、もしかしてこの原料もローカルのものなのかしら?」
「そうだねえ。麦芽と茶葉はここのもの。だけどホップを地元のものだけで揃えるのは難しい。ホップは、大豆やトウモロコシみたいに国際的な市場で大きく取引されているからね……」
「……ということは!もしかして茶葉を使うのはローカルで自給が難しいホップを使う量を減らすという意図もある?(←茶葉にもホップがもたらすような苦味と抗菌作用がある)」
「そうとも言えるね。
僕たちのミッションは、地域の経済と農業をサポートすること。トットネスで口にするものはなるべく地元の食材を使ったものがいいし、そのぶん利益も地元の生産者に落ちるだろ?そのためには、知恵と工夫がいっぱいいる。制約があるのはタイヘンだけど、そのぶん面白いアイデアも出てくる。このビールみたいにね。」
この”New Lion Brewery”では面白い好循環が生まれている。
ローカルのファンのために、ローカルの原料を使ってビールをつくる。そこには当然制約や限界がある。
しかし、それを「ビハインド」と捉えるのではなく「新たなアイデアのきっかけ」と捉える。今までなかったようなチャレンジができるし、何よりそのチャレンジを自分の財布からお金を出して支えている組合員たちがいる。
小さなビールメーカーが起点になって、地域の産業と経済にイノベーションが起きている。つまり、クラフトビールによって地域が醸されているのであるよ。
新たな未来をつくるためには、チャレンジが必要だ。
そして、チャンレンジするには、それを支えてくれる仲間がいる。リスクを分散させて、チャレンジするヤツの勇気を後押しする。
困っているヤツも同じように、みんなで支える。大きな社会の動きに取り残されてひとりぼっちにならないように、知恵を出しあう。
Jacekさんは、コミュニティ型クラフトビールというチャレンジをする。そして、グローバル化の波に抗って、地元の農家の力になろうとする。そして、その取組みを、コミュニティが支える。抽象的な意味ではなく、実際にお金は払ってビールを飲むという行為を通して(そしてその応援行為は、美味しくて楽しい)。もしやこれが…
組合活動の原点なのかッ…!?
「あーどうも。イギリスまでやってきました、賀川豊彦です。社会を変える、困っている人を救うには、施(ほどこ)すだけでは足りません。力をあわせて、仕組みを作らなければいけないのです。」
「つまり、モノが供給されて、人が健全に働けるようになって、コミュニティもきちんと回っていくようなシステム。その助け合いの仕組みを組合と呼ぶならば、このトットネスはまちぐるみでそれを実践している。
賀川先輩、スゴいっす…!自分、まだまだですッ…!」
(なかなかわかってきたようですね。ちなみにイギリスはCOOP発祥の国ですからね。そこんとこよろしく…)
前回ボローニャと違ったスタイルで、トットネスは「マジにローカル」な取り組みをしているところでした。
ハードロック(AC/DCとか)聴いてそうなお兄ちゃん作のビールを飲んで「これ最高だねー!」とコメントしたら「いやあ、このビール原料ぜんぶ地元のなんだよ。クールだろ?」と返されました。トットネス、どこまでもマジなところだ…。最高かよ。
Jacekさん、ほんとにお世話になりました。今年の夏、ヒラクはもう一度トットネスに行きますぞ。
See you next…!
ヒラクさん待ってました!
ラジオでも話されてからいつかなーいつかなーと…
9000人の町で一つのブルワリーが90キロリットルってすごいですよね!(海外の人は消費量激しいのでこれくらいフツーなんでしょうか?)しかも他に多くのブルワリーがあるんですよね…競合他社との関係はどんな感じなのでしょうか…会社の規模とか…?詳しく聞いてみたいです。また現在ホップの世界的な供給の流れがどうなるのか懸念されてる部分もあるようですし、地元の茶葉を活用してというのは色んな意味で…とりあえず飲んでみたいの一言に尽きます(笑)
組合員との関係も気になりました!イギリスの自家醸造について詳しくないのですが、ビールもみんなで仕込んだりするのでしょうか…米ポートランドも注目してましたが、英トットネスもですね!
また近い将来的には発酵醸造の分野に進路変更を考えているので、働けるならそういう所でチャレンジしたいと思います!
いつも素敵な記事をありがとうございます!(あんまり言い過ぎるとあれなのですが、ヒラクさんの文体すごい好きです)
ふぁーびーさんこんにちは。ヒラクです。
そうそう、9,000人の街で90キロリットルはスゴい。もちろん会員以外の人も飲んでいるんだけど、まあイギリスのビール消費量はスゴいんです。
僕ももっと詳しいことが知りたいので、6月〜夏までトットネスを再訪して、超短期留学することにしました。
その時のレポートもまたお伝えしますね。
僕の文体かあ…。特に何も意識したことないんだけど、嬉しいデス。無駄に飾らす、かといってそぎ落としもせず、読む人とおしゃべりするような感じです。