「コミュニティビジネス」の先駆けとしてのCOOP。
「安全安心・産直・合理性重視」の先駆けとしてのCOOP。
しかし諸行無常は世のことわり。
いつしか先駆的モデルは日本の小売業界の標準となり、COOPの使命は一端終わりを迎えた…のか?
というのが、前回までのあらすじ。
全国のCOOP組合員の皆さまが固唾を飲んで見守っている(らしい)「COOP男子」企画。
今回で「第一部:そもそもCOOPって何ですか篇」の最後の更新。テーマは「NEXT COOPの未来像」。舞台は前回に引き続きコープ九州事業連合。豪腕専務の江藤淳一さんにお話を聞いてきました。
さあそれでは今回も元気にいってみよう!
「率直な質問です。なんでCOOPってこんなに大きくなったんでしょう?」
「COOPが全国で展開していったのは1970年代から。背景には食品の品質に対する不安がありました。ヒ素入りミルクの食中毒事件や、真っ赤な色のソーセージなど、保存料や着色料が過剰に使われた加工食品が戦後しばらくのあいだ多く出回っていました。しかも毎年のように値段が上がっていく。今のように規制もしっかりしていなかったから、じゃあ生活者が自分たちで信用できるものを手に入れよう。そういう流れが全国に広がっていったんだね。」
「社会問題が背景にあったわけですね。つまり、ビジネスで儲けようというよりは、社会運動としてCOOPの共同購入の仕組みが発展していった…」
「そういうことです。1950年代〜60年代にそういう問題が次々に起きて、それ以降から生活者が自分の口にするものに安全を求めるようになったんだね。」
「その『生活者』というのは、主に誰なんですか?」
「女性です( ー`дー´)キリッ」
僕の知り合いの女性たちも、子どもができたのをきっかけにCOOPを使いはじめる人がたくさん。
子どもの未来のためにも、信頼できるものを買いたい。そしてそれはCOOP!というブランドイメージは、高度経済成長期に形成されたもの。有機食材やトレーサビリティが保証された商品が普及していない当時、お母さんたちが家族を守るために、まさに「自分の手」でCOOPを発展させていったのです。さてそれはどのように?
「戦争が終わって、民主主義の時代がやってきます。でね、COOPは女性たちが民主主義を学ぶ学校のような場所だったんです。」
(なッ…!いきなりの衝撃発言!! 民主主義を学ぶ学校だとッ…!?)
「当時のCOOPの共同購入の典型を解説しますね。団地でお母さんたちが5人一組で班になって、届いた商品を分配していきます。この時にみんなでガヤガヤ議論をするわけね。商品の選び方や使い方を情報交換したり、新しい商品を考えたり。ただ内輪で話しただけで終わりじゃなくて、さらに他の班とも情報共有する。そしてその共有された情報が、COOPの専従スタッフに吸い上げられていくわけです。」
「おお!班の井戸端会議が商品開発のフィードバックになっていくわけですね。」
「そう。それで実際に新しい商品を作るわけ。そしたら、売れるよねえ。だって、買う本人たちが欲しいものなんだから。加えてさらに利点があります。当時、独立して働くのが難しかったお母さんたちが、他人と議論したり、商品アイデアを考えたり、会話を組織の商品開発や経営にフィードバックしてもらうように働きかけたり、社会にコミットするということを学ぶきっかけになったんですね。」
あッ…、それ…、僕のおばあちゃん!
僕のおばあちゃんの幸子さんは、コープさっぽろで熱心に組合員活動に取り組んでいました。幸子さんが特に力を入れていたのが商品開発のアイデア出し。きっとこれ、純粋に楽しかったんだろうなあ。。。
COOPの特徴として「商品を売る人と買う人は対等(というか同志)」というスタンスがあります。
これが、結果的に女性の社会進出のトレーニングに役立った。自分のアイデアをカタチにして、COOPの経営に関わることだってできる。それが自己実現にも、同じ班のお隣さん同士との結束力を高めることにもなった。そんなロイヤリティの高いユーザーがどんどん改善のヒントや新商品のアイデアをあげてきて、それを実現したらさらに売れるという最強のポジティブスパイラルが確立。これがCOOPの大躍進の原動力となったのでした。
「あの…江藤さん。竹を割ったような物言いですいませんが、女性の社会進出って、だいぶ実現しましたよね?」
「そう言えるでしょうね。実は90年代後半くらいから、共同購入ではなく個人宅への配達が増えているんですね。」
「それはつまり、働きに出ている女性が増えてきたということの結果ですよね。社会進出のトレーニング期間が終わり、実際にみんな働き出すと、班のコミュニティ機能がはたらかなくなる。とすると、COOPへのロイヤリティや商品のフィードバック、さらには組合の普及活動が減っていく…」
「その通り。実は今私たちが抱えている問題はそこなのです。」
おお…なんてことだ!
前回発覚した「小売の先駆モデルとしてのCOOPの役割は果たされた問題」と同じく「女性の社会コミットの先駆モデルとしてのCOOPの役割も果たされた問題」も明らかになってしまった!
_人人人人人人人人人人人_
> どっちも果たされた <
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さて一回整理しよう。
まず後者の「コミュニティ」の問題の未来は、コープこうべの本木さんが一つのモデルを示している。
「ないのなら、育ててみせようコミュニティ!」
→COOPが旗振り役になって、地域のコミュニティの盛り上げプログラムを運営
【第三回】そもそもCOOPって何ですか?コープこうべ本木さんに聞いてみた<後半>
一方、前者の「事業モデル」の問題の未来はどうなんでしょう、江藤さん?
「ないのなら、開拓しようローカル市場!」
「…というわけで、COOPの事業モデルの未来をお話ししてもらっていいでしょうか。」
「例えばこのコープ九州事業連合は何のために存在しているかというと、複数のCOOPの流通と商品ラインナップをまとめることで『安定した品質を買いやすい価格でお届けする』ためなんですね。大手小売メーカーもできない流通の仕組みをつくったのです。しかし、これは同時に矛盾でもある。」
(矛盾…?どういうことなんだろ?)
「全ての組合員に安定して商品を届けるとなると、大量生産のできる大手製造メーカーに生産してもらうのが前提になります。しかし、この九州、沖縄という土地の未来を考えたときに、果たしてそれだけでいいのか? 九州では急速に少子高齢化や所得格差が広まっています。その状況を解決するためには、地元の小さな生産者を大事にするべきではないのでしょうか。」
「でも、そこに生産してもらった商品は『全ての組合員に、安定して届ける』という原則に矛盾する…」
「正にそういうことです。その矛盾を解決して、その土地の経済や農業も応援できるような流通モデル。それが私、江藤がこれから目指したいと思っているものです。」
ついに核心、入りましたー!
発展するにつれ、商品の安定供給のためにローカリティを薄めていったCOOP。しかしそれが結果として「他の大手小売店とどこが違うのかしら?」という事態を招いた。価格と品質向上を目指した先に待っていたのは均質化。しかしそれはCOOPの当初の理念に違わぬものなのだろうか?その土地なりの、手触りのある商品とコミュニティ。そこに住む組合員が、愛着をもって使い続けられる事業モデル。
今回僕が提案すべきなのは、そのきっかけになるような企画なのではなかろうか?
(久しぶりに登場、江副プロデューサーでーす)
「ヒラクくん、僕が10年かけて取り組んできたのは正にそれ。ついに君に『元祖COOP男子、江副Pの苦節10年史』を話すときがやってきたようだ…!!」
See You Next …!!
次回予告:「小倉ヒラクのCOOPとなにしよっか?」はだいたい毎月1日・10日・20日あたりに更新予定なんだけど、毎回気合をいれすぎて、この頻度では更新し続けられないかもしれません(>_<) 次回はいよいよ第二部「友人クリエイターと企むCOOPの未来篇」が始まります。江副プロデューサーを筆頭に、第一線で活躍するクリエイター達と具体的な企画を練り上げていきます。どうぞお楽しみに!
発酵デザイナー/アートディレクター
0歳からのCOOPユーザー。日本各地の郷土文化や発酵文化に関わるデザインを手がける一方、絵本を出版したり、微生物を育てるワークショップを行っています。この企画では「COOPを発酵させること」を目指し、リサーチや企画の過程をまるごと公開していきます。お楽しみに!