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【第十四回】Re: COOPの震災対策のスケールが大きすぎて何も言うことがなかった件

こんにちは、小倉ヒラクです。
前回でいったん区切りをつけたCOOP男子企画。これからはひとつづきの連載ではなくて、興味のあるトピックスを随時掘り下げていくスタイルにしていきます。

さて。
4月に起こった熊本での地震災害。今も復旧活動や支援活動が続いていると聞きます。 実は僕も地震の起こった直後に、COOPの仕事の打ち合わせに九州に行っていたんですねそこで聞いたのは、地震発生当日からCOOPがあれこれと支援活動に尽力しているとの情報。 いったいCOOPの支援活動は、どのようなコンセプトで行われているのか?

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↑渋谷にある日本生協連のエントランス。めっちゃ立派やぞ…!


ということで今回は、支援活動の責任者であり、日本生協連(日本生活協同連合会)の専務理事、嶋田裕之さんにお話しを聞きにいってきました。

「ん…?そもそも日本生協連って何?」という疑問は後でお答えしますのでご心配なく。
ちなみに被災地での実際の支援活動レポートはこちら。

・COOP EMERGENCY
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僕のほうでは具体的なエピソードではなく「COOPの支援活動とはそもそも何なのか?」というコンセプトについて取り上げています。

それでは行ってみよう!

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嶋田 裕之(しまだ ひろゆき)さん:全国のCOOPを横つなぎをする日本生協連(日本生活協同組合連合会)代表理事専務理事。今回の震災の支援活動をはじめ、商品開発や人材育成など様々な業務の舵取りをしています。初対面のヒラクに紙飛行機のおもちゃをプレゼントしてくれました。
COOPの災害支援ガイドライン
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「昔東京に住んでいた時のルームメイトが熊本出身だったこともあって、地震があった場所に友人がけっこういます。彼らの状況を知ると『余震が多すぎて日常生活に戻れない』という不安があるようで、心配です。今回の地震はどんな様子だったのでしょうか?」

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「今回の地震の特殊な点としては、①本震が遅れて来た ②被災地がもともと地震のリスクが低いと思われてきた この二点があわさって、現地側の対応が混乱した、というのがあります。つまり行政もふくめて備えが十分ではなかった、ということです。」

hiraku

「じゃあ、九州以外の地域だと事情は違った、ということですか?」


「COOPに限って言うと、実は阪神大震災と東日本大震災の経験でガイドラインが整理されているんですね。過去の震災の経験を活かして、COOPで全国共通の支援対策ガイドラインをつくったのです。ただ、全国版とは別に地域ごとのマニュアルもつくる必要があって、それが九州では遅れていたのですね。」

hiraku

「えっ、COOPってそんなことまでやっているんですか?」

「ここにガイドラインがありますから、見ていいですよ。」

↑分厚いマニュアルを見て驚愕。これ、いち民間組織がやることじゃねえ…!
hiraku

「おおおーッ!網羅されていますねえ。特にこの基本方針、ものすごくよく考えられているというか…。例えば『被災地優先配分』の方針は『県外の人が多少ガマンしても被災地に物資や人を送りましょう』ってことですよね。これは過去に『被災地に色々送って、地域のお客さんを待たせていいのか?』という悩みの答えが反映されているわけですよね。経験の積み上げを感じますねえ。」

 

(ちなみに詳しい内容に興味がある人は、このサイトから問い合わせどうぞ)

組織であると同時に、一個人として

「今回は想定外のシチュエーションで起きた震災ということで、行政側も対応が間に合わなかったことがあったと思うんですが、COOPではどんな対応をしたのでしょうか?まず僕が思ったのは、現場レベルでの対応の早さ。熊本のCOOP店舗を中心に、食べ物や日用品を配ったりしていますよね。これって上からの指示を待っていても間に合わないから、現場の人たちが自分で判断してやっていると思うのですが…」

 

catch↑4/22に投稿されたCOOP EMERGENCYの記事より。現場力!

「あれは、地域の店舗の人たちが自主的に『やれることからやろう』と始めたことです。商品を一律100円で売るか、それとも無料で配るのか。こういうことは誰かにお伺いを立てることではないわけで、その地域の人たちが自分で決めているのですね。こういう機動力は、まさにCOOPの本領でもあり、力の源なわけです。」

「それは本当にそうですよね。トップダウンではなくボトムアップの方法論は現場においてはとても頼りになると思います。」

「もう一つこんな実例があります。例えば建物が倒壊しかかっている店舗のなかで、住民に配る商品を棚卸ししたりするのは、普通の企業だったら危なくてできない。ただ、COOPはいわゆる雇用主と従業員という関係性だけではないので、現場の人たちが必要だと思ったらそれをやるし、止める理由もない。」

「それはつまりいち従業員ではなく『人として』という意識で動く、ということですか?」


「そこね、ポイントです。組織に属しながら同時に『一個人として』というあり方が、まさに協同組合=COOPの基本的なあり方。COOPの職員は、人に使われる立場ではなく実は組合のオーナーでもある。言い換えれば『地域の人たちが助けあえる場』のオーナーなんですね。
商品の配達に行った時に『いつもいるおばあちゃんが今日は出てこないな。どうしたんだろう?』と心配になりますよね。この関係の延長線上に、非常事態での現場の対応がある。震災という場でたまたまCOOPの本質があらわれきたということです。」

「一個人同士が、人としてより良く生きるために助け合う。改めてCOOPがコミュニティである所以(ゆえん)ですね。」

コミュニティの単位

「では次に現場ではなくもうちょっと広い範囲での支援についてお聞きします。現場は自走している。そのなかで嶋田さんおよび日本生協連は何をやっているのでしょうか?」

「私のいる日本生協連というのは、全国各地にある生協を横つなぎしている組織です。災害支援としては何をしているのかというと、まず支援に必要な物資と人を全国から手配することです。そして被災地域にあるCOOPの事業の立て直しをサポートすることです。」

「おおなるほど。まるでEU(欧州連合)のような仕組みですね。参加している国から少しずつ原資をプールして、どこかの国で危機が起きたら連合体全体でそこをサポートする…」


「ちょっと似たような仕組みかもしれませんね。なぜこのような複雑な仕組みができるのか考えてみましょう。
コミュニティには単位があります。例えば地域の店舗を中心とした顔の見えるコミュニティがありますね。これはシンプルで双方向の助け合いの仕組みです。

では顔の見えない関係性ではどうか?例えば被災地から遠く離れた場所の人が、何か支援したい!と思ってもどうしていいかわからないし、とりあえず現場に行ってみてもむしろ混乱を招くだけかもしれない。
その場合、支援をしたい人と受けたい人の中つなぎをする機能が必要なわけです。

私たち日本生協連がやっているのは、この中つなぎの機能です。遠い関係性から必要なものをまとめて調達して、現場でそれを必要としている人たちにピンポイントで融通していくわけですね。」

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COOPのなかでも理解が難しい「事業連合」の仕組み図。

直接的なコミュニケーションで助け合う小さなコミュニティから始まったCOOPが、大きくなっていくうちに段々『顔の見えない関係性』が大きくなってくる。そしたら間接的コミュニケーションを整備していく。

この繰り返しで、COOPは発展してきました。「小さなユニットをどんどんまとめていく」という方法論は文章で読んでもわかりにくいので、図にまとめておいたぜ。

COOPにおけるスケールメリット

「そもそもCOOPというのは助け合いの組織ですよね。元々の起こりは、生活をよくするような商品やサービスが欲しいけど、一人じゃ手に入れられないからみんなで協同して買おうということです。これが最小のユニットで、店舗や地域の配達サービスにあたります。
そうすると次は、異なる地域間で商品の買い付けや配送をまとめるとより合理的な値段になるから例えば九州エリア全体で協同しようとなる。
さらにそれを広げると全国共通で商品や流通システムがあったらいいよね、という話になる。

日本生協連がやっているのは『全国共通で協同する』という部分のコーディネーターなんですね。」

「嶋田さんは、2,000万人規模のCOOPのコミュニティの中で、一番抽象度の高いコミュニケーションを司っているわけですね。その仕組みは、今回の支援対策でどのように生かされていますか?」

「まず勘違いしないでほしいのは、僕たちが何かを代表しているわけではないということ。COOPというのは何か中心があるわけではなく、あくまで地域が主役です。

地域に顔の見えるコミュニティがあるわけでしょ。これが基本。その、地域のコミュニティにおけるサービスがより良くなるようにサポートしているのが僕たち。
それを前提とすると、震災復興の主役は地域の人たち。現場の状況を見ながら的確な行動を取ることができる。そこに僕たちが何か指図をしても良いことはないんですね。
ただ、その地域にあるリソースだけだといずれ底を尽くし、人手も足りない。そしたらじゃあ外から融通する。過去の震災で学んだノウハウもあるし、非常時に備えた水や日用品の備蓄もいっぱいある。こういうものを使ってじゅうぶんな支援をすることができる。」

「全国規模で蓄積したノウハウと物資で地域を助けることができる。スケールすることのメリットですね」


「そのとおりです。今回、実際にどんな支援をしたのか。地震があった直後にCOOPの職員を派遣して、避難所を一箇所ずつ回って歩くんですね。
COOP組合員であるかどうかは関係なく、そこにいる人みんなに『支援物資は必要ですか?』と一日に二度も三度も聞いてまわる。その裏側で、人と物資を全国から調達しているわけです。」

「それはほとんど行政がやるようなことですね!」

「今回の規模ぐらいの震災だったら、COOPだけでもなんとかできる。そう言えるように長い時間をかけてガイドラインや流通を整備してきました( -`д-´)キリッ。」

「そこまでの力があるならば、行政と一緒に動いたりするようなこともあり得るわけですか?」

「はい。2011年の東日本大震災の時のみやぎ生協がそうでした。ここは宮城県内で7割以上の世帯が組合員なので、震災後の対策本部に行政から声がかかりました。ここまでCOOPの仕組みが普及していると、地域のインフラとしてしっかり責任を果たせる、行政ともばっちり連動できるわけです。」


「そうかー。嶋田さんのお話しではじめてCOOPが大きくなる意味が見えました。九州事業連合の梶浦理事長が共済の仕組みで言っていたのも『助け合う人の母数が大きくなることのメリット』ですね。」

【第十回】COOPの未来に向けての2つのプラン。九州事業連合の梶浦理事長に提案してみた。

嶋田「ピンチの熊本を、全国のCOOPが力を合わせて助けた。小さな熊本の力を寄り集まって大きくしたわけです。これを機に、熊本は現場としていろんな事を学んでさらに力をつける。それが『協同すること』の意義なのです。」


「いや〜、今日は奥深い話が聞けました。嶋田さん、どうもありがとうございました!」

取材を終えてみて…

今までの連載を通して「スケールが大きくなりすぎたこと」をCOOPの問題だと言ってきました。
しかし今回の震災対策の話を聞くにスケールするからこそできることもまた重要であることが腑に落ちたぜ。「大きくなるか、小さくするか」という単純な二択では問題は解決しない。

地域性をどう取り扱うのか、商品ブランドをどう整理するのか、地域間の交流をどう促すのか。異なるレイヤーのコミュニケーションをどう設計するのか。 具体的な行動をどのように最適化するか、その積み重ねが鍵になる。

さてそのヒントやいかに…?と考えてみたら、ひとり思い浮かんだ人が!

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それは、COOP ITALIAのブランドマネージャーのAnnaさん。

【第十一回】変わり続ける勇気を持て! COOPイタリアのアンナさんに聞くブランド構築の極意

「スケールすること」「多様性を持つこと」の両立をどうするのか?実は僕、来月私用でヨーロッパ行ってくるので、もう一度ボローニャを訪ねることに今決めた!
Annaさん、6月か7月、時間ありますかー?

See You Next…!

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