Vol.6 イタリア>喜びをもたらすワインをたずねて。

「メイド・イン・イタリー」の源へ

 

この秋から各生協での販売が始まった「コープイタリアのワイン」。国際協同組合間提携によって開発されたこのテーブルワインは、コープイタリアで年間1000万本以上愛飲されているPBワインと同じ商品だ。コープイタリアによる厳しい審査を通過して契約業者となり、そのワインを生産しているチェビコグループを訪ね、日本へ運ばれる“メイド・イン・イタリー”の源を取材してきた。

イタリア中央部のやや北側にあるエミリア・ロマーニャ地方に位置するチェビコは1963年創業。現在は15のワイナリーと約4500のブドウ栽培者のほかに醸造所とボトリング工場を擁し、年間10万トンというイタリア第二の生産量を誇るワインの生産組合に成長している。最初に訪問したのはエミリア・ロマーニャ地方の中心都市ボローニャ近郊にある、ロンコ工場だ。

1)コープイタリア店内のコープワイン売場。
2)途中訪ねた築350年の農家に暮らす契約業者のブドウ畑。

ロンコ工場

ロンコ工場には畑からブドウが着いてからワインとなって食卓へ届くまでのすべてのプロセス、つまり保存、醸造、ボトリング(充填)、包装、出荷、小売が揃っており、「コープイタリアのワイン」についてはボトリングを行っている。イタリア各地の契約農家からトラックで届くブドウは、計量後絞られて果汁となりそれぞれ大きなステンレスのタンクに移される。いつどこの地方から到着したどんなブドウかという記録が記された札とともにしばらく寝かせられ、醸造を待つことになる。醸造後は3段階に分かれた細かさの異なるミクロフィルターによる濾過と、一週間ほどの滓下げ期間を経てボトリングされる。その際にはワインを長期間密閉保存しボトルの中で熟成させていくためにも窒素を注入する。

別棟の研究室では、この仕事に携わって13年というイラリオ・エンシーニ氏が率いる醸造家チームが、日々品質や味わいに関するリサーチを行うとともに、ボトリングされるワインを工場から1時間ごとに抜き打ちで取り出し、不純物などが混入していないかを調べている。氏は「お客様の満足度を高めるために常に改良、改善を図っている。今日は昨日よりも前進しようと日々取り組んでいる」と意欲を語る。

ボトリングには新品とリサイクルされたボトルの両方を使用する。後者は3度の洗浄と消毒を経てボトリングの工程に加えられる。1時間に1万本を充填できるこの工場には常時5名が従事し、さまざまなデザインのボトルとラベル、3種類の栓に対応している。その一角にはさながらボトルのショールームのような場所があり、目を引いた。この工場で扱っている百種類近くのボトルのサンプルを並べ、ラベルのデザインや貼付位置の指示書を含めたボトル全体の仕様書として保管、機能しているのだという。

倉庫に行くと、出荷を待つ高く積まれた段ボール箱の中で、チェビコが近年実現させた注目すべきプロジェクトを知ることができた。ひとつは「バッグ・イン・ボックス」という全く新しい形状のワイン。アルミ製の袋にワインを入れ、プラスチックの栓をして、厚い紙の箱に入れて売るものだ。ガラス瓶と違って軽量で持ち運びしやすく丈夫で、箱自体はリサイクルができ、3,5,10リットルと容量も選べることなどが人気の理由だいう。ピクニックやイベント会場での消費も、この形状を投入してから大きく増えたようだ。

もうひとつは「Assieme (アッシエメ=一緒に、仲間、という意味)」というプロジェクト。イタリアの他のワイン組合、および生協と共同で10種類のワインを企画、生産し、国内の生協スーパーで販売するものだ。ワインを味わうという大きな喜びにつながる「生産者」「生産活動とそれに伴う作業」「10種類のワイン」という3つの要素と、「生協」「売り場」「消費者」をつなげるプロジェクトであることからこのように命名されたという。同社で扱っているのはブドウ種はカルビアーノ、シャルドネ、サンジョベーゼ、ウルビコーネ。ロンコ工場のプロダクトマネージャー、エンリコ・パンツァヴォルタ氏は「このようなプロジェクトに参加できることはとても光栄。『Assieme』の一部を生産できることは作り手としての大きな喜びであり、組合としての意義も大いに感じている」と評する。

我々の訪問は、工場併設のワインショップで終えることとなった。エンシーニ氏は「今後も日本の消費者の方々のお好みに合う、価格と品質のバランスの優れた、おいしくて健康的なワインを作っていきたい」と抱負を語り、ブドウ栽培者の家に生まれ育ち、この仕事に就いて20年というパンツァヴォルタ氏は「世界中の人たちに我々のワインを飲んでもらうことが何よりも喜びとやり甲斐になっている」と話してくれた。

1)ロンコ工場敷地内にあるワイン販売店舗。量り売りが人気。

マッセリーナ

次にチェビコグループの醸造所のひとつ、マッセーリーナのショールーム兼サロンとブドウ畑を訪ねた。マッセリーナはチェビコ製ワインの中で高いグレードに位置づけられている。緩やかな斜面に広がるおよそ15ヘクタールほどの畑からは赤ワイン用、白ワイン用それぞれの品種のブドウが作られているが、その収穫はいまだにすべて手摘みで、文字通り手をかけた物作りが行われている。

著作も多く、各国から講演などに招待もされている、チェビコの農地経営学者リッカルド・カスタルディ氏が畑を案内してくれた。氏は枝の一本、一本、房のひとつひとつの見分けがつくようで、実に丁寧な説明だったのが印象的だ。「この仕事に必要なことは2つだけ。自然に対する畏敬の念、そして情熱だ」と言い切る氏によれば、イタリアの各州で生産されるワインの中で品質と価格のバランスに最も長けているのは、ここエミリア・ロマーニャ地方のものという。「豊富なブドウの種類、個性に富んだ土壌、海と山の両方がもたらす特殊な気候」により、幅広い味のブドウが実るためで、それらのさまざまな組み合わせと割合で作られる当地のワインには、他の地方からは生み出せない深みと多様性が備わっているのだそうだ。

1)夕方になると黄金に光るブドウ畑。
2)マッセリーナの赤ワイン。158はその標高から。

チェビコ本社

その後フランチェスコ・パガネッリ輸出部長の案内で、チェビコ本社を訪問した。あいにく週末だったためオフィスにも工場にも人影はなく、試飲を楽しみながらワインを購入できる店舗も残念ながら閉まっていたが、広々としたオフィスと、ロンコ工場よりはコンパクトにまとまった工場を見ることができた。

チェビコグループ全体には460人が従事しており、本社には70人ほどが勤務している。ワインの国と言われるフランスでは国内のワイン消費量が年々減り、ほとんどの作り手は今では輸出に注力せざるを得ないようだが、チェビコにおいては昨年は売上げが倍増し、輸出はこの数年、毎年20%から30%の伸びを示しているという。現在の売上げは約1億ユーロでそのうちの85%はイタリア、残りが輸出によるもの。輸出先の内訳は30%が中国、20%がロシア、15%が日本で、中国は毎年倍増というが「費用対効果と長い視野で見たとき、今後も力を入れて行くべき市場は日本と位置づけている」(パガネッリ部長)。前年比+15%を示している日本は「気に入ったものとじっくりと付き合う、忠誠心の厚い消費者が多い」(同氏)ことが魅力のひとつのようだ。

氏は今後の推移は依然として明るく、成長する余地はまだまだあると見ている。同社自身の努力と、市場の動向の2つが同時に作用することがその根拠のようだ。一般的に製造業界では、小さな作り手はきめこまやかなケアと工程で、非常に質の高いものを少量生産し高い価格で販売する一方、作り手が大きな組織を構えて多額の投資を行えば、良質のものを大量生産でき、かつ価格を抑えることができる。氏によればワイン業界においてもこの構図は成り立ち、後者のしくみこそ同社が実践していることなのだという。

具体的には、主要な輸出先ごとに営業担当を配し、扱うブドウの品質を向上させ、大学や専門家など外部スタッフと協力してコスト削減とその最適化、ロジスティクスの改良、ブドウ管理システムの改善を徹底させ、売り上げの5%から6%をプロモーションに充てる、などの措置が挙がる。

それらを後押しするのが、最近の消費者の志向、動向だという。「人々はワインに限らず、どんな商品についても価値と質が伴わないものにはお金を使わなくなる傾向にある。今後も変わらないであろうこの流れの中で、我々の商品は相対的な強みを発揮できるはず。逆に言うと、良いものをいい価格で提供することができれば成長していける」と氏は見ている。

特にプロモーションやワイン消費の啓蒙については「エミリア・ロマーニャ地方はワインの産地としての知名度が低いので、その向上にも注力していく」。ワイン好きな消費者を15人ほど集めて、同地方のワイナリーをめぐるツアーもその一貫。それを発展させた、より消費者に近づく手法が国外での直営ワインバー開設だ。チェビコのさまざまなワインを存分に味わえるバーを、今後3年間で日本に3店、バンコク、ムンバイ、ドバイ、マイアミなどの都市に合計7店の開設を計画しているという。

コープイタリア

最後に、このワインをPBとして開発し年間1000万本を販売しているコープイタリアを訪ね、責任者のお2人にお話しを伺った。まずPBカテゴリーマネージャーのマルコ・ゾルダン氏は「イタリアとワインの関わりはローマ時代から始まった」とその起源にさかのぼってから、今のイタリアにおけるワイン消費について解説をしてくれた。

氏によればイタリアでは、一般的には1980年代までワインは「昔から作られ続けていて、食事のときに登場する飲み物」という、さして特別に注目されるものでもなかったが、その後の人々のライフスタイルの変化とそれらに刺激された作り手の努力や台頭があり、こだわって作り、こだわって消費する嗜好品という位置づけに変わってきた。

「昔は飲み物と言えば水かワインしかなかった。1960年代のイタリア人の一人当たりのワイン摂取量は年間120リットルだったが、今年は40リットル。ビールやソフトドリンクなど、選択肢が大きく広がったことと、浴びるように飲むのではなく、少なくていいのでおいしいものを、と飲み方自体が変わったことが背景にあるだろう」と氏は分析する。現在でも60歳以上の人に限れば今までの習慣もあるためか、年間100リットルという量になるようだが、若い人たちは事前に調べたり、情報を集めたりして多少高くても味わいのあるワインを好む傾向にあるようだ。このようなことから、1980年代以前と比べるとイタリアのワインの品質は全体的に上がったが、消費量としては減少したといえる。しかし日本を見てみると一人当たりの年間ワイン消費量はほんの2リットル程度。「人生のさまざまな時間と向き合いながら、誰かと一緒にグラスを交わしながら、時間と楽しみをわかちあうということがワインのもたらす喜び。日本の方々にはもっとワインを楽しんでもらえるはず」と氏は力強く結んだ。

PBディレクターのドメニコ・ブリジゴッティ氏は「我々はこの日生協とのコラボレーションをとても嬉しく思う。イタリアとイタリアワインの質を評価してもらうことでこれが第一歩となり、今後も同様のプロジェクトが続いて行くことを願っている」と将来への期待を寄せた。ワインだけに留まらず、歴史と文化の豊かさに裏打ちされたイタリアの食品や素材には、まだまだ日本の食卓を彩ってくれる宝物がある。ひとつずつ、少しずつ、発掘していければと願っている。

1)イモラ工場の巨大な貯蔵タンク。
2)最新のイモラ工場にあるガソリンスタンドのようなワインの量り売り場。

 

2011年11月17日 久世留美子

 

PROFILE
久世 留美子
久世 留美子
Rumiko Kuse

東京生まれ
フェリス女学院短期大学家政科卒業
ニューヨーク州立ファッション工科大学(FIT)広告&コミュニケーション学部卒業

92年秋よりミラノでフリージャーナリスト活動開始
97年秋よりパリ在住
08年10月、Luminateo Inc.を東京に設立
日本と欧州におけるプロデュース、コンサルタントが主業務

プロフィール詳細

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