Vol.4 フランス>ブドウに従事する。それは芸術的な仕事。

フランスで最も重要な組合のひとつ


サンテミリオン生産者協同組合(以下UDPSE)は1931年設立。12世紀にイギリス領になった頃から本格的なワイン産業が始まったボルドーは、フランス革命後にワイン業で財を成す、あるいは成そうとする欧州諸国からの参入者とともに栄え、さらにワインビジネスが発展した。

このような歴史から世界中にその名が知れ渡っているボルドーに最初にできた組合がUDPSEだ。設立当時、疫病や恐慌などが起こり互助が不可欠との考えから、7つの中小の作り手たちから組合が自然と生まれたという。現在では約170社が加盟しており、加盟企業の合計耕作面積は750ヘクタール。ほとんどが中小企業なので、お金を出し合って様々なもの(設備、技術など)に共同で投資し、利潤も公平に分配するという「昔に生まれた精神に則って、最新設備と技術とともに歩む」スタイルだ。大きなオフィスと倉庫、試飲もできる広い店舗などをゆるやかな丘の間に構えている。

1)UDPSEオフィスの正面玄関。
2)設立間もない頃の傘下シャトーを記したもの。

80年でかけがえのないノウハウと経験を蓄積

UDPSEでは年間およそ450万本を生産し、出荷、販売している。加盟企業のうち56社はシャトーを所有しているため、彼らのワインに関しては、他社や他の畑からのブドウは混ぜず、ていねいに作り安定した品質を保つことを心がけている。その合計生産量は年間約2万5千から3万本という。

今年で設立80周年を迎えるUDPSEがこの間に積み上げてきたノウハウや経験はとても貴重なものだ。家族経営の形態で考えると2代目または3代目になる歴史を持つため、市場や消費者の嗜好を反映した経営手腕が問われて来る頃だが、設備も機能も充分若々しく、とても80年を経た組織には見えない。案内してくれたローレンスさんは「80歳でもはつらつとしていて、知恵やスピリットで若い人たちを驚かせるマダムが、たまにいるでしょう。この組合もそのマダムのような存在」だと説明してくれた。

1)年代ものの貯蔵庫。ワインカラーが男性的な空間によく映える。
2)設立初期の頃、手書きで記していた台帳。

コンパクトで効率のよい生産

UDPSEの生産工場に入ると、必要最低限の設備だがその環境下で最高のものを最善の方法で作っていることがよく分かる。UFOキャッチャーのようにブドウ果汁をタンクに振り分けるまでの一貫システム導入に投資した額は1500万ユーロ。「この地方にここしかない」貴重なシステムだ。加盟企業からだけでなく地方やEU(欧州連合)からの援助もあり、中小の私企業では到底工面できない規模のシステムを完備することで、生産効率だけでなく業界の内外へのイメージ改善も可能となった。特に2000年から2003年に集中した投資とシステム改善が奏功し、昨年は2500万ユーロに達したという。

この一貫システムにおいては、手摘みブドウと機械摘みブドウを、第一ステップから異なるラインにのせて行くが、ブドウの質を劣化させないまま、次の工程に移動させていくことが難しい。規格外のブドウを瞬時によりわける機械の存在も、大きく貢献している。

すべての流れをオンラインで管理しながらも、各工程に人員も配備。機械だけでなく、人も目でのチェックも怠らないことを重要視している。どの畑のどの部分のブドウかがすぐ判別できるようトレーサビリティの徹底も図っている。

訪問したのは収穫期を2ヶ月後に迎える頃だったので工場内はとても静かで空のタンクが多かったが、繁忙期に備えて毎晩すべてをきれいに洗浄し、メンテナンスを欠かさない。プロ選手がいつでも試合に出られるよう、常に良いコンディションを保っているイメージが重なった。

組合全体の従事者は46名で、そのうち10名がオフィス地下の工場や倉庫で働く。設立後しばらくはオフィス地下に倉庫を設けていたが、扱う本数が飛躍的に増えたため、現在はオフィス横と地下でボトリングまでを行い、すべての保管は15キロ先の専用倉庫で行っている。ボトリングには2名が従事し、ラベリングしない状態で倉庫へボトルを移動させる。

1)1500万ユーロを投資した一貫生産システム。
2)いつでも稼働できるよう毎日のメンテナンスは欠かさない。

生産と品質

ワインの格により、樽で寝かせる期間は半年、14ヶ月など異なっている。UDPSEに残っている最古の樽のひとつは1650年に伐採した木を用いたものだ。当時は船の建造に主に使われていた木材らしく、その樽には年号が刻印されている。

組合として常に留意していることは安定した品質の継続と、徹底した品質管理。外部独立組織からの検査がとても厳しいが、「それらをクリアすることで、より消費者からの信頼を得られる」と受け止め、毎回努力しているという。

検査に訪れる主な組織はIFS(国際食品基準)とBRC(英国小売監査機関)だ。特に後者は2日間にわたって行い、約400の設問があり、ひとつひとつの想定ケースに対する対処法を回答していかなくてはならない、など細かく、かつ骨が折れるらしい。2006年にこれら2つの組織によるハードルの高い審査をくぐり、それぞれからの認定を獲得した。

1)1650年から2006年まで活躍した樽。
2)オフィスの地下にあるボトリングエリア。

ワインの消費と愉しみ方

ローレンスさんは2002年からアジア市場を担当している。当時はアジア諸国と比較すると日本が圧倒的な消費国だったが、今では中国に越されているという。「今後は日本市場も少しずつ回復することは確信しているが、中国の規模には追いつかないだろう。フランスのワインの作り手はみな中国市場に売りたがっているが、課題があるのも否めない」ようだ。

オフィス敷地内にある広い店舗には、所狭しと自慢のワインが並び、1,2本、さらっと選んで行く地元の人たちだけでなく、車でワイン畑めぐりをしている旅行者たちがケースごと買って行く姿も見られた。ユニホームを着てネクタイを締めたプロのソムリエたちを相手にカウンターのスツールに座り、心ゆくまで試飲してから買う事もできる。

UDPSEのファンのためには、オリジナルのワインオープナーやグラスマーカーなどワイン回りを華やかにするグッズ売り場も店舗の横に用意されていて、組合が一丸となっていることを改めて感じさせられた。

ローレンスさんによればワインの愉しみ方というのは「複雑なものではない」そう。「ワインがもたらすものは、ボトルを囲む人たちと一緒に過ごす時間の楽しみであり、喜びであり、分かち合い。どんなワインがいいか、好きかは人それぞれに個性があるように、異なっていていいはず」と説く。

そのような愉しみ方ができるワインの、世界で最も有名な産地のひとつボルドー地方での生産者として「世界に広まっている“ボルドーワイン”のイメージと個性だけでなく、その中にあるサンテミリオンというエリアにもこれだけ幅広く深い商品があるということ、そしてボルドーワインは高価なので、特別な機会に飲むもの、と考えるのではなく、日常を楽しむ一翼を担えるワイン、例えば我々の商品のようなものもあるということ」を今後もコツコツと伝えていくことが、自分たちの使命のひとつと捉えている。

市場から支持され信頼されるために必要なことのひとつは「ぶれないこと」と言い切ったローレンスさん。「流行やテイストの変化に流されず、自分たちのアイデンティティーを反映した物作りを続けながら、品質を一定化あるいは改善させていくことが何よりも重要」と力をこめる。そのためにも「大勢で集まると、個々で探しあてる解決法よりも、優れた方法が見つかることが多い。それも組合の強みのひとつ」とUDPSEの存在意義と価値を総括してくれた。

1)オフィスに併設されているワインショップ。
2)ショップ内にある、落ち着いて試飲ができるカウンター。

 

2011年8月10日 久世留美子

PROFILE
久世 留美子
久世 留美子
Rumiko Kuse

東京生まれ
フェリス女学院短期大学家政科卒業
ニューヨーク州立ファッション工科大学(FIT)広告&コミュニケーション学部卒業

92年秋よりミラノでフリージャーナリスト活動開始
97年秋よりパリ在住
08年10月、Luminateo Inc.を東京に設立
日本と欧州におけるプロデュース、コンサルタントが主業務

プロフィール詳細

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