Vol.1 デンマーク>115年の歩みと知恵を、最大限かつ最善に還元していく。

1000人が働く本社を訪問

コープデンマークの本社は、首都コペンハーゲンの中心から西へおよそ15キロ行った所にある。水面が凍る小さな湖や、カラフルな壁に囲まれた動物園などにも道中目を奪われながら、本社に着いた。

本社屋は、縦でなく横に長く延びる大きな建物。周りには車のディーラーの広々とした店舗や、ガソリンスタンド、オフィス、倉庫などが見通しのいい道に立ち並ぶ。その風景は日本でいえば、郊外の国道沿いのよう、というのが最も近 い描写かもしれない。

本社一階の中央部は吹き抜けで、奥のガラス越しには広い庭が広がるロビーには、ミッドセンチュリーの雰囲気がただよっていて、企業というよりは美術館といった雰囲気だ。受付で待っていると、広報部長のイエンス・ニールセン氏が来て、あたたかく迎えてくれた。氏のオフィスにお邪魔してお話しを伺った。

「消費者の共通利益の安全な保護のために生まれた」

「国中の消費者の共通利益の安全な保護のために」1896年1月に生まれたコープデンマークは、今年で創業115年。35,000人が従事し、170万人が加盟しており、2009年は500億デンマーククローネ(およそ7620億円)を売り上げるまでに成長してきた。デンマーク国内食品市場の37%を占める最大の小売網となっている。

この市場占有率は「過去30年間、ほぼ一定。この占有率は適切と考えているので今後もこの数字を維持して行きたい」とのことだが、企業が成長を継続するために決断や判断を下す際、優先順位をつけていく事柄や、この比率を維持するための売上げの生み出し方は、近年特に変化していきているようだ。

金融危機をきっかけに展望を開く

100年以上の歴史が残したノウハウや企業理念をもとに、これまで切磋琢磨してきたコープデンマークだが、2008年のリーマンショックでは、“裕福な国”であったはずのデンマークも「その影響を多大に受けて、世帯収入が縮小し、可処分所得も激減した。しかしそれを機に、進むべきいくつかの方向がより明確になっていった」という。

まずは「最も信頼されて、もっとも責任感のある企業になること」。これを企業ビジョンとして掲げ、すべての政策を新たにそこから生み出し、今日まで進んできている。その具体化は(1)より快適でモダンなバーチャルとリアルの売り場づくり、そして店舗づくり、(2)景気の低迷による経済力の弱体化に対応するディスカウントチェーンの拡大、(3)健康増進とオーガニック商品への高まる関心への充分な対応になる。

(1)と(2)に関しては現在「年間およそ10億クローネ(およそ152億円)」を投じており、「よりよい作りの店で、より手頃な価格の商品を提供できる」ディスカウントチェーンは370店まで広がった。

5つのチェーンと商品構成の工夫

2006年にデンマークの大企業で最も優秀な企業に、またヨーロッパで最も信頼できる企業に選ばれた「Irma」のほかに、コープデンマークは4つのストアチェーン「Kvickly」「Super Brugsen」「Dagli’s Brugsen」「Fakta」を擁しているが、全体に共有されている、企業行動の基本とするキーワードがある。それは「環境/オーガニック」、「健康」、「気候」、「フェアトレード」だ。これらを念頭に、プライベードブランド(以下PB)とOEMを開発し、買い取り商品を取捨選択しているという。

会員の定着を図るためにも、PBの拡充には今後も力をいれていくようで「現在食料品全体の25%を占めているPBを、今後5年で30%まで増やして行く」予定。「より利益の効率がよいことと、競合他社に差をつける商品開発がカギとなる」と見ている。

特にオーガニック関連商品への会員の関心の急激な高まりと、それに比例するニーズの拡大は顕著で、売り場への期待感は「首都コペンハーゲンでも、小さな地方都市でも差はなくなって来た」という。そのような市場に合わせるよう努力してきたため、「現在デンマーク国内に流通しているオーガニック食品の50%が、我々の商品になっている」と分析する。

その潜在性はまだあると見込んでいることから、扱う商品のすべてをオーガニックや環境・気候に配慮したものにする“グリーン・ストア“と呼ぶコンセプトのチェーン展開に、年内にも着手していく予定という。

そのほかの今後の具体的なプランとしては、「年間売上げの2%を用いた広告・宣伝活動」、「最良の職場を作らなければ、企業として目指すところの最良の結果はもたらされないことから、従業員への教育と環境向上」、「コスト、特にロジスティクスと流通におけるコスト削減と効率化への投資」、「会員からのロイヤリティの向上」を挙げてくれた。

ロイヤリティ向上のためのポイントシステムは最近導入したそうで、ポイント数に応じた割引を店頭で受けられるというシステムは、今のところおおむね好評ということだ。

同時に並行して進めていかなくてはならない事項としては「若い顧客層の開拓と定着化」、「強くアピールできる新規ブランドの開発」、「競合他社も謳っている社会的責任についての差異化」、「オーガニック商品の拡充」を掲げており、日々全社をあげてそれらの前進に努めていると語ってくれた。

その実例を見るため、ハイパーマーケットのKvickly と、ハイクオリティマーケットのIrma に、インタビューのあと足を運んだ。

ハイパーマーケット、Kvickly訪問

コープデンマークとコペンハーゲンの中心街との間に位置する、コペンハーゲン周辺では最大の店舗。1階が食料品、2階が生活雑貨。順路は一筆書きになっている。カートを持って売り場に入るのだが、その入り口の、売り場とは反対の正面にまず花売り場がある。売り場内に入ってからはトイレタリー、野菜と果物、乾物、冷凍食品と乳製品、肉、飲み物、洗剤、その他台所雑貨が並び、通路をはさんで菓子、飲み物などがある。

レジで会計を終えると正面に水平に長く広がる、宝くじカウンター、キオスク(たばこなどを販売)、雑誌や新聞、そしてパン売り場。半数近くの人たちが、レジを通過したあと、ここにも立ち寄っている。

2階への移動は、自転車の街でもあるコペンハーゲンらしく、自転車や乳母車でも容易に利用できる“歩く歩道”形式で登るのだが、逆に、階段がない。そのスペースのダイナミックな取り方も印象的だ。2階にはファッション雑貨、衣類と下着(男性、女性、子供、べビー)、キッチン雑貨、書籍、文房具、自転車周りのグッズなどが並ぶが、全体的に雰囲気はあまり軽やかではなく、ややさびれた感じも否めない。

衣類や雑貨周りのMDで面白かったのは、サイズ対応のため在庫も多く抱えな くてはならず、生産効率もよくないはずのシューズ類の陳列が意外にも豊富だったことだ。売り場の絶対数が相当確保されていないと対応できないはずなので、この陳列にコープデンマーク傘下の売り場の多さを想像することができた。

両フロアを通じて、Coopブランドや、最近始めたオーガニックブランド「anglamark」がかなり販売されていたが、デザインの統一感や、積極的な姿勢が伝わってきたのはanglamarkの方。Coopブランドには、やや古ぼけた印象が否めないデザインやプレゼンテーションのものが多かった。anglamarkブランドの売り場への投入が後だったということが、ここからも伺える。

1)パン売り場の前で試食を勧める女性。レジで会計を済ませた客の流れをつかまえる。2)鮮やかな野菜や果物が並ぶ。すべて量り売りだ。
3)乾燥した有機豆やシリアル。右は食器洗い用洗剤。
4)コープオリジナルの商品が店内のあちこちの前面に並ぶ。

ハイクオリティマーケット、Irmaを訪問

コペンハーゲン中心街の最もにぎやかなエリアに建つ百貨店「イルム」の地下にあるIrma。大きな吹き抜けにより、その高級感が増すつくりになっている。かごを持って買い回るエリアと、ワインやチーズのみを買って行けるエリアに分かれており、後者は通路をはさんでイートインのできるベーカリーとカフェにつながっている。

Irmaのロゴ

レジに近い手前半分は、縦横に動線がつくられているが、奥半分は買い回りを促進するように、動線が縦横だけでなく、円を描くように設定されており、陳列にも変化をつけている。

手前半分には、必需品や日常用品としての利用がより高いと思われる食品や保存食を中心に陳列されており、奥にはトイレタリー、ワイン、キッチン雑貨、などが並んでいる。そのさらに億に、乳製品、冷凍食品、肉などが集積されており、魚介類、関連保存食が続く。青果関連は個別仕切られたエリアに集められており、最も活き活きとした雰囲気が演出されている。太陽が少なく、その光をとても大切にする文化であることも、その売り場作りにやや反映されている気がした。

空間演出の全体的な傾向は、Irmaオリジナル製品やPB商品を、棚においては最も目につきやすい高さ、また柱の壁面を利用した目立つところに掲げられていることだ。視界にそれらが占める割合を自然と高めている。

店内を統一するトーンは什器を中心に白とナチュラルカラー。Irmaのロゴの使い方も、(特に野菜などを入れるビニール袋や、パーテーションの磨りガラスなど)静かに主張していてとても印象的だった。スーパーの外、つまりベーカリーやカフェテリアにいる人たちにもひと目で分かるよう、主要な柱部分にはロゴを縦に大きくしたものを貼ってアピール。色はグレーにして、白い壁や柱に映えるよう工夫されているようだ。レジを終えたところにはKvickly同様、キオスクと宝くじがあった。

1)貨店の吹き抜けを降りたところにIrmaが入っている。
2)入り口に並ぶワインケース。それぞれの柱にもロゴがある。
3)オリジナルストッキング。庶民的な商品をグレード感高く仕上げている。
4)選ぶのも楽しいオリジナルジャム。

考察

今回見た2つの店舗はハイパーマーケットとハイクオリティマーケット。前者の2階を除いては、さほどそのカテゴリーの上下の差を感じさせない店内、つまりレジまでの空間だったが、レジを一歩でてからの造りには、グレード感においてかなりの差があった。

興味深かったのは、食品においては、基本的な商品(日常的な調味料、シリアル、嗜好品など)では同じアイテムであればこれら2つの店舗において価格はほとんど変わらないということ。これについてはニールセン広報部長からも確認を得ている。ということは逆に言えば、これら2つのチェーンは価格以外で互いの差をつけているということになるだろう。

逆に2カ所で共通していたのは、レジで会計する際、買い物袋に複数の素材や大きさが用意されていること。紙製、薄めのビニール、厚めのビニールの3種類があった。またレジの向こうにキオスクがあることも同様だ。

冷凍食品のケースがそれぞれ店舗の中央にあったこと、そしてその高さはのぞきこむくらい低く、また側面にまでガラスを使っていたことも意外だった。

次にコペンハーゲンに足を運ぶときには、PB商品やIrmaのオリジナル商品がどれくらい充実したかを検証したいと思う。

 

2011年3月22日 久世留美子

PROFILE
久世 留美子
久世 留美子
Rumiko Kuse

東京生まれ
フェリス女学院短期大学家政科卒業
ニューヨーク州立ファッション工科大学(FIT)広告&コミュニケーション学部卒業

プロフィール詳細

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