デンマーク語で「小さなかけらを少しずつ」という意味の「Rub&Stub」はヨーロッパで初めての、余剰食材のみを提供する、コペンハーゲンの中心地にあるレストラン。毎日ディナーのみの営業で、日替わりのすべての前菜、主菜、デザート、パンを、余剰食材として集められたものから作り、提供している。ゆうに100席はある広い店内のフロアとレジには5、6人が、キッチンには4、5人がスタッフとして働いているが、2名のシェフを除く全員がボランティア。一人当たりひと月に3日の就業を基本としており、のべ100名から120名がボランティアとして登録している。
当初は余剰食材を提供してくれる相手先を探し、精査し、関係を安定させることに苦労しただけでなく、「食べ残しを有料で出しているのでは?」という誤解を解き、賞味期限内の、安全かつ余剰とされるものを廃棄せず無駄なく使っているというシステムの周知に苦心したそうだが、創業メンバーそれぞれの持つSNSネットワーク、来客者による口コミ、食材提供側からの宣伝、メディアでの露出など多角的な発信が継続的に行われたおかげで、現在では経営も安定しつつあるようだ。
供給元は主に地元の個人商店や個人経営の農家、中規模のスーパーチェーン、余剰食材を集荷することを主な活動としているNPOなど。「有名なスーパーからも不定期ながら供給をしてもらっているが、最初彼らは自分たちが提供していることは明らかにしてほしくない、と言ってきました」。デンマークの生協のチェーンのひとつ、IRMAからも時折提供があるようだ。パンは歩いてすぐの距離にあるベーカリーが最大供給元。閉店間際に余っている生地を取りに行くのだという。
日々集められる食材の内容や量が変わるため、献立も毎朝決まる。お酒もほとんど、提供されるもので賄っている。ワインはセール終了後や、ラベルが少し曲がって貼付されてしまったものなどがごっそり集まるという。不揃いながら味わいを醸し出している、ランプや照明も寄付されたもので、壁にアーティスティックに並ぶ木枠のディスプレイも、提供されたワインケースだ。客層は幅広く、ビジネスディナー、男性の友人同士、女性の友人同士、ミドルエイジカップルのほか、大勢の仲間達とわいわい楽しんでいるグループもいた。料理の値段も量も、物価が高いコペンハーゲンの中心地に位置するレストランとしては平均的だが、料理のおかわり自由というところが他の店と決定的に異なっている。
同レストランは昨年元旦にデンマークの難民委員会傘下になったことを受け、今年からその特性を活かすべく今まで以上にその分野を意識しながら活発に動いていく考え。「すべての難民の人たちには、それぞれの故郷の伝統料理があるはず。彼らにも料理人として参加してもらい、各国料理で腕をふるってもらいます。料理は世界共通の営みであり、そこに言語の壁はないはずなので、積極的に推し進めていきます」。1年後にはメニューの厚みがぐっと増していそうだ。
※ 1デンマーククローネ=16.38円 2016.3.2現在
2016年3月2日 久世留美子
東京生まれ
フェリス女学院短期大学家政科卒業
ニューヨーク州立ファッション工科大学(FIT)広告&コミュニケーション学部卒業
92年秋よりミラノでフリージャーナリスト活動開始
97年秋よりパリ在住
08年10月、Luminateo Inc.を東京に設立
日本と欧州におけるプロデュース、コンサルタントが主業務