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No.3 作る人、選ぶ人、運ぶ人。ワインに関わる人々。

ワインを造る人々。

フランスには、英語に翻訳できない「テロワール」という言葉があります。本来は「土」を意味しますが、実際にはもっとずっと深い意味があり、言うなれば「気候と土壌と地形の組合せ」。ワインだけのための言葉で、その意味は昼夜の気温差や日照時間や土地の勾配、水はけなど、多くの条件を含んでいます。フランスでは、ブドウを育てる土をはじめとした自然環境を、とても大切にしていることが分かりますね。

そうした土地でブドウを栽培する人々を、「ヴィニュロン」や「ヴィティキュルトゥール」と呼びますが、昔は、彼らは圧搾機や樽や発酵槽を持つ経済的余裕がなく、自らワイン造りはしませんでした。作ったブドウは、主な加工施設だったシャトーや修道院に送られ、ワインになります。そしてブレンドしてボトルに詰める商人やネゴシアン(業者)に売られ、やっと商品になるんです。

現在では、ドメーヌと呼ばれる、ブドウ栽培からワイン生産までする個人や団体の人気が高まり、特にブルゴーニュワインでは、ドメーヌが大きな比率を占めます。ボルドーのシャトー(ボルドー地方のブドウ園のこと)でも、生産者がワインを瓶詰めする着想が生まれたのは第二次大戦末期以降で、それまでは分業だったんです。

フランスではワイナリーをいまだに「カーヴ」とか「セラー」とか、昔ながらの名前で呼びますが、シャトー・オーブリオンのような最先端技術を使う、コンピュータ制御された現代的なワイナリーも増えています。ステンレスの発酵槽が並ぶ光景は、いわゆる昔ながらのワイン蔵のイメージとはすいぶん違うな、と思われるかも知れませんね。

ジャケットの胸に光る金のバッジは、フランスワインの達人と称される「コンセイエ」の資格を持つ証。フランス食品振興会が主宰するワインアドバイザーの称号で、食事やシーンに合ったワイン、今オススメのワインなどをアドバイスしてくれる。
多くのフランスワインのラベルでは、「テロワール」の考えから、伝統的にブドウの生産地を示す文字を大きく、生産者の名前は小さく印刷される。これに対しワイナリーの技術を重視するアメリカでは、ワインの生産者とブドウ園の名前が中央の位置を占める。
PJワインセラー内に飾られている、古い馬車。ドイツでブドウを運んでいたものだそう。
コープ職員・石井梨香 ボルドー訪問記」でご紹介したボルドーのワイン工場。歴史あるシャトーの中には、外観は古い城のままでも内部は最新鋭の機器が並ぶ、現代的な工場になっているところが少なくない。

「女性が選ぶワイン」という新基準。

サクラアワード」ってご存知ですか。2014年に始まったばかりの日本最大級のワイン審査会で、審査員はソムリエール、ワイン生産者、ワイン輸入者、ワイン講師、ワインジャーナリストなどワインの専門家で、全員が女性というところがユニークな点です。わたしも審査員の一人だったのですが、おいしいものが大好きな、女性ならではの基準で審査するという試みが注目され、第一回にも拘わらず世界29カ国から1900アイテムを越えるワインが応募されました。

これらを、延べ256名の女性プロの視点で、公正に審査しました。
「ダブルゴールド」に選ばれた96アイテムの中から、最終審査で最高位に当たる「ダイヤモンドトロフィー」に20アイテム選出されました。次いで「ゴールド」には249アイテム、「シルバー」は390アイテムでした。

2014年はパンジャパン貿易が取扱っている「コートロシュセ」もダブルゴールドを受賞し、生協さんにも取り上げていただきました。2015年度の賞もこの3月に発表されています。サクラアワードの受賞ワインには、ラベルにさくらのエンブレムシールが貼られています。全国の女性が認めたワインの目印ですから、ぜひ売り場で参考にしてくださいね。

普段から、飲むお酒はほぼワインという安副社長。世界を飛び回りながら、店やセラー内の作業も行う。指に巻いた絆創膏は「ワインを運んでいて、関節を痛めてしまいました(笑)」だそう。

ワインを通して、つながる人々。

パンジャパン貿易は父の会社ですが、もともとは普通の貿易業でした。でも父が海外で、大切な商談の席などに必ずワインが出てくるのを見て、これからはワインだ、とワインセラーを始めたんです。こんな郊外の住宅地に、西日本最大と言われるワインセラーがあることに驚かれますが、「ワインは静かな場所に寝るべき」という父の考えで、当時の自宅を改築したんです。こんな家業で、海外に住む親戚がいたこともあって、子供のころから自然と、海外を身近に感じて育ちました。英語に力を入れている西南学院に通いましたし、高校から中国語も学びました。

仕事で世界各国に行きますが、いちばんよく行くフランスが、やっぱりいちばん好きですね。ブルゴーニュのドメーヌに泊めてもらうと、朝、窓を開けたとき見渡す限りブドウ畑が広がっていて、まるでハイジになった気分です。アルザスやサンテミリオンもきれいですよ。

この仕事をしていていちばんおもしろいのは、人との出逢い、つながりです。海外での仕事で知り合い、友達になった人が、家族を連れて遊びに来てくれたり。世界ではライバル会社が…競合が…と気を遣うこともなく、おいしいワインを介してみんなが仲良くなれる。そんなとき、この仕事をしていて良かったと思いますね。

「おいしいワインを通して、世界中の人とつながれる」。味や香りだけでない、ワインの魅力を語る安さん。

インタビュー:牛島彩  写真:門司祥(スタジオCOM)

PROFILE
安 映子
Eiko An

パンジャパン貿易株式会社
PJワインセラー取締役副社長

貿易会社を営む父の影響で幼少から海外に興味を持ち、英語、中国語を学ぶ。西南大学卒業後、東京の航空会社を経て父の経営するパンジャパン貿易へ。フランス食品振興会認定コンセイエ。全日本ソムリエ連盟認定ソムリエ。日本ソムリエ協会認定ワインアドバイザー。

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